南方からの音楽  吉原 敏雄  約半年の制作期間をもってようやく完成しました「POP -music from south district-」。タイトル通りのポップな曲揃えになったかと思います。初めは8曲構成の予定でしたが、あとで「Introduction」と「Word」を付け加え、全10曲になっています。最後のトラックの「Word」だけは5年くらい前のNK3時代に作曲したものですが、他はすべてオリジナルの新曲です。「Seaside」と「Destiny」の2曲は沖縄で、それ以外の8曲は名古屋で制作しています。  トラック1「Introduction」  当初「Atomosphere」の前に曲を入れる予定はありませんでしたが、「Days」 を作った時あたりに突然この曲を思いつき、遊びでイントロとして1曲目に入れてみました。歌詞もありませんし、曲と呼べるほどの長さもありませんので特に解説はないですね…(笑)。  トラック2「Atomosphere」  このアルバムの中で一番初めに作った曲であり、一番出来がよかった曲です(笑)。出だしから最後までパーカッションのリズムが曲を引っ張っていて、Verse(Aメロ)→Bridge(Bメロ)→Chorus(サビ)と少しづつリズム楽器を増やしてあります。Verse、Bridge、Chorusを全て転調させたかったので最初に伴奏から作り、そこにメロディを乗せました。  タイトルの「Atomosphere」とは、「雰囲気」と言う意味です。私達は自身を取り囲む「雰囲気」によって、勝手にその気になったり、出来るはずなのに諦めてしまったり、また物事の本質を見失ったりしている事が多々あります。今の暮らしはそこそこ幸せだし、特に不自由もない…はずなのに、なぜかたまに空しさを感じるのは、そんな「雰囲気」に飼い馴らされているだけなのではないか?本当は悲しいはずなのに心の底から泣けないのはなぜだろう?少し大袈裟ですが、そんな日々の疑問からこの歌詞は作られています。私は人生とは壮大なる勘違いの集大成だと思っています。本人の気持ち次第、「その気」になった者勝ちです(笑)。ただし私達の「その気」は「雰囲気」によってポジティブにもネガティブにも流れて行ってしまいます。常にどこか冷静で、物事の本質を見極められるような豊かな心を持っていたいものです。  トラック3「Destiny」  「Atomosphere」とは逆に、このアルバムの中で一番最後に完成した曲です。試行錯誤を続けながら、他の曲を制作する傍ら少しずつ構想を練り、11月の終わりに一気に作りました。何か一つジャズっぽい曲がやりたくてこのような曲を作る事にしたのですが…(汗)。  タイトルの「Destiny」は「運命」と言う意味です。人間は生まれた時、分かっているのは必ず死ぬと言う事だけで、そこに至る道のり(プロセス)は無限の組み合わせ、言い換えれば生まれた瞬間にはその人の人生には無限の可能性があると言えます。しかし、どんな道をどのようにたどろうとも、決して避けては通れないポイントが、私達の人生には多かれ少なかれあるように思います。きっとそれを昔から人間は「運命」と呼んでいたのではないでしょうか。私自身のそんな避けて通れなかった「運命」を曲にしたモノです。  トラック4「Days」  この曲は5曲目にする予定でしたが、6曲目の「Pop」と何となく曲調や歌詞が似ているので間に「24 hours」を入れて4曲目に繰り上げました。パーカッションから入る曲の始まりは、80年代後半に活躍したユーゴスラビアの二人組ユニット「ムーランルージュ」が1989年に放ったヒット曲「Boys don't cry」を参考にして(パクって(笑))います。この曲はChorus(サビ)のメロディと歌詞が最初にひらめいて、そこにVerse、Bridgeの伴奏をくっつけてそれぞれのメロディを考え、最後にVerse、Bridgeの歌詞を書くと言う変則的な作り方をしています。そのためかバランスが悪い曲のような気がします(汗)。  このアルバムの曲の歌詞は、サブタイトルの「music from south district」が示すように、ほとんど青い海と青い空に囲まれたとある南の島を舞台に書いていますが、この曲だけはその島(=故郷)を遠く離れた都会、「この街」からの視点で書いています。人はうまくいかない日々が続くと、「あの頃はよかった」なんて過去の幸せに想いを馳せ、今に目を閉ざしがちです。でも気が付いていないだけで、今生きている毎日(=「Days」)の中にも大事なモノ、大切にしたいモノ、幸せを感じるモノが案外身近にあるのかもしれない…と言う気持ちでこの歌詞を考えています。  トラック5「24 hours」  「Days」と入れ替えで5曲目に入ったこのアルバムで唯一のバラードらしいバラードです。パーカッション(TR-808)から始まり、ピアノ、ストリングス、ベースと入って来る前奏は、作った本人も結構気に入っています(笑)。この曲は最初にVerse、Bridge、Chorusのギターパートだけを全部作り、そこにTR-808、ピアノ、ベース…と他のパートを重ね、最後にメロディを考えています。  4曲目の「Days」とはまたちょっと違いますが、「24 hours」の歌詞もこのアルバムの中では異質で、「僕」や「君」と言った人を指す言葉を使っていますし、歌詞がある9曲中でこの曲だけが恋の歌(失恋ですが…(汗))です。今回このアルバムを作るにあたり、ここ数年の私の曲では軽視しがちだった歌詞にも重点を置きたいと考えて、安易に作りがちな恋の歌や、勢いですぐ作ってしまう歌詞によく使っていた「君」とか「僕」などの人を限定して指す言葉を極力排除し、あまり具体的な描写はせずに、歌詞の持つ世界の奥行きを広げようとしました。しかし、この曲だけは作りはじめた時から、私自身の過去にあったつらい恋の終わりの事をモチーフにしようと考えていて、多分に以前の私の歌詞のスタイルを引きずったモノになりました。なぜそう考えたのかは自分でもよくわかりません。早く忘れたいと思う一方で、また簡単には忘れられないと思う気持ちがこの様な曲を作らせたのかもしれません。  トラック6「Pop」  このアルバム「POP」と同名の曲です。ただしアルバムタイトルの「POP」は全て大文字で、「Piece Of Persona(=私は「個性のカケラ」と訳しています)」の略を表していますが、こちらは本来の単語としての「Pop」を使っています。タイトル通りポップな感じのこの曲のイントロは、実は3年半くらい前に作ったものです。当時はそれに続く曲が思い浮かばなかったため放置していましたが、今回この「Pop」のイントロに最適だと思い、長いブランクを経てようやく日の目を見る事になりました(笑)。  この曲はNK3中期の私の曲に多かった、いわゆる「メロ先」と言うやつで、まず最初に曲(主旋律のメロディ)を作り、それから歌詞を乗せ、最後に編曲を行っています。そのせいか、ちょっと他の曲に比べて音が薄いかもしれません。まあ、メロディ重視ってことで(笑)。今回のアルバムでこうした作り方をしたのは結果的にこれ一曲のみでした。NK3時代のアルバム「HIGH-HIT-POTENTIAL」や、発売されませんでしたが(泣)ゲーム音楽制作などの経験を積み、だいぶ伴奏から作る制作手法が私の曲作りのスタイルに定着してきた事を表していると思います。  歌詞には、このアルバムを通して私が一番言いたい事を込めました。また、自分自身のこれまでやこれからの日々の生活に贈る詞でもあります。簡単に言ってしまえば、「人生色々あるけど、その瞬間を楽しみながら、前向きに生きて行こうよ」ってことですね。  トラック7「Afternoon」  制作日は2日にまたがっていますが、恐らくこのアルバムの中で一番制作に要した時間が短いと思われる曲です。真夏の午後、曲調のようにまったりとした気分で作りはじめて、いつの間にか完成させていました(笑)。この曲の後、「Word」、「Days」、「Introduction」と立続けに曲を作ったり、10日ほど旅行に行ってたりしたので、しばらく聴き返す機会がなく自分の中では印象が薄い曲でしたが、あとから聴いてみると、簡単に作った割にはきれいにまとまってる曲だなあと自分では思います。この曲はまず全編のベースとパーカッションから作り、それに合わせて他の伴奏を付けています。パーカッションのリズムや伴奏の音色は南国の民俗音楽っぽさを出そうと意識しました。音色はMIDIの音色名と言うよりかは聴いた時の感じで選んでいます。例えばバックグラウンドで和音を演奏している伴奏は、実は「Picked Bass」というベースの音色を使っています。曲の最後に沖縄の民俗楽器、「三線(さんしん)」を入れたのはその時の思いつきです(音色は単に三味線ですが…)。一応琉球音階っぽいメロディにしてみましたが、実際合っているかどうかは不明です(汗)。  トラック8「Workaholic」  「Atmosphere」に続いて制作した曲です。「Atomosphere」が実際曲作りを始める前の、構想を練る段階で比較的時間をかけたのに対し、この曲はほとんど一瞬の思いつきの勢いだけで作っています。なんとなく曲を聴いていただければその勢いが伝わるかと思います(笑)。この曲はボーカルに左右のエレキギター、アコースティックギター、キーボード、ベース、パーカッションと私の曲にしては珍しくロックぽく、生楽器だけでも演奏出来そうな編曲になってます。あとメロディーもあまりAメロ・Bメロ・サビ…とか意識しないで作っています。「Workaholic! Workaholic!」と言うところはエフェクトでリバーブをかなり上げていて、最後はボーカルだけが響いて残るようにしてあります。  この曲の歌詞は働き過ぎでいつもいっぱいいっぱい気味の某友人に宛てたモノで、タイトルの「Workaholic(=ワーカホリック)」は仕事の「Work」とアル中の「Alcoholic」とをかけ合わせた造語だそうで、「仕事中毒」と言う意味の一昔前の日本人にほとんど当てはまりそうなコトバです(笑)。最近は不景気で仕事をするにもできず、禁断症状が出てるお父さん方が多い事でしょう…。無能な今の政治家達こそワーカホリックだったらよかったのに…。  トラック9「Seaside」  海岸沿いの道をドライブする時なんかに最適な、小気味よいノリとテンポで耳障りにならないイージーリスニング的なモノを狙って作った曲です。曲の感じは「Atmosphere」っぽいですが、あっちほどインパクトはない曲になっているかと思います(それがいいかどうかはさておき…)。この曲はまず前奏とVerseの伴奏・メロディーを作り、続いてChorusのメロディーを考え、最後にBridge部分を作っています。このアルバム10曲の中で一番Bridgeを作るのが難しい曲でした。伴奏は早くから考えていたのですがメロディーがなかなか…。まあなんとかまとまったので良しとします(笑)。  歌詞もそのまんまの詞です。海岸沿いをドライブして休日の一日を過ごしたと言うシチュエーションを想像したり、また実体験を思い出したりしながら作っています。  トラック10「Word」  1曲目の「Introduction」と同じく、あとから追加収録する事にした曲です。この曲は解説の冒頭でも触れた通り、5年ほど前から私の頭の中では出来ていましたが、なかなか制作する機会がありませんでした。今回このアルバムを作るにあたり、歌詞の内容も踏まえて、この曲を最後に持って来たいと思い、制作することにしました。  この曲の歌詞はNK3初期の頃に、編曲等でもお世話になった吉原真以さんに、当時「Illusion(作曲:ビーン=カタヲカ・ヨシハラトシヲ/編曲:ビーン=カタヲカ)」などの歌詞と一緒にいただいたモノだったと記憶しています。短い歌詞ですが、読むたびになんと言うかコトバの大切さを再認識させられます。「目は口ほどにモノを言う」などとも言いますが、やはりコトバが足りなければ気持ちはうまく伝わらないでしょう。しかし美辞麗句を並べ立てればそれでいいのか?とも思います。偽りのココロではなく、本当のココロをいつもコトバにして、相手に気持ちとして伝えたいものです。  このアルバムのコンセプトは大きく2つあり、何年経っても色褪せないような普遍的なポップミュージックを作る事、そして単に字数を合わせた上辺だけの歌詞を書かない事、でした。はたしてこの10曲はその2つのコンセプトを貫き通せているかどうか…、判断は聴いて下さる方々に委ねます(笑)。  最後に、いつも突然曲を送りつけては公開してくれと無理を言い、さぞ迷惑だったでしょうむささびさんと、私の今日の(まだ貧弱ですが)音楽的なバックグラウンド形成に多大な影響と助言を与えてくれたNK3のカタヲカ・イトヲ両氏に感謝とお礼を付け加えておきます。  2002年12月25日